ベルリンの壁の物語
私の名前はアンナ。東ベルリンに住む普通の女の子です。でも、私の街には普通じゃないものがありました。それは、大きな、大きなコンクリートの壁です。パパはそれを「街の顔にできた傷跡」と呼んでいました。その壁は、私たちの街を真っ二つに分けていました。西ベルリンには、会ったことのないおばあちゃんが住んでいました。ママは写真を見せてくれましたが、壁のせいで会いに行くことはできませんでした。政府が、東ベルリンの人々が西側へ行けないように、ずっと昔に建てたのだと聞きました。壁はいつも灰色で、冷たくて、静かでした。まるで、街を飲み込もうとする巨大な眠れる怪物のようでした。上には有刺鉄線が張られ、見張り塔からは兵士さんたちがいつも私たちを見ていました。壁の向こう側がどうなっているのか、私たちはテレビでしか見ることができませんでした。そこはまるで別の世界。明るい光と、楽しそうな人々。私たちは、まるで大きな鳥かごの中にいるような気分でした。
でも、私が10歳になった1989年の秋、空気が変わり始めました。ザワザワとした、でも希望に満ちた空気が街中に流れ始めたのです。夜になると、パパとママがキッチンで声をひそめて話しているのが聞こえました。「変化が来るかもしれない」と。通りでは、ろうそくを持った人たちが静かに行進していました。怒っているのではなく、何かを強く願っているようでした。みんなの顔は真剣で、でもキラキラと輝いて見えました。そして、11月9日の夜がやってきました。その日は、歴史が変わった日です。家族みんなでテレビを見ていると、政府の役人であるギュンター・シャボウスキーさんという人が、なんだかよくわからない発表をしました。「旅行の規則が変わります…すぐに、ただちにです」。パパとママは顔を見合わせました。信じられない、という顔でした。「まさか…壁を越えられるってことか?」。最初は誰もが半信半疑でした。でも、外から人々の声が聞こえ始めました。だんだん大きくなるその声は、まるで波のようでした。パパが窓から外を見て叫びました。「みんな壁に向かっているぞ!」。ママは私の手を握り、「アンナ、歴史が動くところを見に行くわよ」と言いました。ドキドキしながらコートを着て、私たちは興奮した人々の流れに加わり、一番近くのボルンホルマー通りの国境検問所へと向かったのです。
検問所に着くと、そこはもう人でいっぱいでした。でも、誰も怒鳴ったり、乱暴になったりしませんでした。みんなで一緒に「ゲートを開けろ!」と繰り返し叫んでいました。それは、まるで大きな歌のようでした。国境を守る兵士さんたちの顔は、困惑と緊張でこわばっていました。彼らも、どうしていいのか分からなかったのでしょう。何時間も経ったように感じられました。そして、その瞬間が訪れたのです。大きな金属のゲートが、ゆっくりと、きしむような音を立てて開きました。一瞬の静寂の後、ものすごい歓声が夜空に響き渡りました。みんな泣きながら抱き合い、笑っていました。パパは私を肩車してくれて、私たちは人々の波に乗って、生まれて初めて西ベルリンの地を踏みました。目の前に広がる世界は、まるで夢のようでした。明るいネオンの光、見たこともないお店のショーウィンドウ、そして西ベルリンの人々が私たちを拍手と笑顔で迎えてくれました。知らない人同士が抱き合って、家族が何十年ぶりかに再会する場面をあちこちで見ました。その夜、世界で一番幸せな場所に私はいました。数日後、人々がハンマーやノミを持って壁を壊し始める音が聞こえてきました。あの灰色で冷たい壁が、人々の手によって少しずつ崩れていく。あの音は、自由の音でした。振り返ってみると、あの夜、人々の声が、どんなに分厚い壁でも壊すことができるのだと知りました。そして、離れ離れになった人々も、いつかはまた一つになれるのだと。
読解問題
クリックして答えを見る