夢の詰まった箱
こんにちは、わたしはテレビだよ。わたしがまだ生まれていなかった、ずーっと昔の世界を想像してみてくれるかな。その頃、物語はラジオから聞こえてくる声だけだったんだ。夜になると、家族みんながラジオの前に集まって、冒険の話や面白いコメディに耳を澄ませていた。それはそれでとても楽しかったんだけど、みんなの心の中には、いつも一つの大きな疑問があったんだ。「この声の主はどんな顔をしているんだろう?」とか、「このお話の場面を、目で見ることができたらどんなに素敵だろう?」ってね。そう、みんな音だけじゃなくて、絵も見たかったんだ。そんな世界中の人々の夢を叶えるために生まれたのが、わたし、テレビという魔法の箱なんだ。遠い場所で起きていることを、まるで目の前にあるかのように映し出すことができる、不思議な箱だよ。これから、わたしがどうやって生まれたのか、お話しするね。
わたしをこの世に生み出してくれたのは、たった一人じゃないんだ。何人もの賢くて、夢見る力を持った発明家たちの、たくさんのアイデアと努力の結晶なんだよ。まず最初に紹介したいのは、スコットランドに住んでいたジョン・ロジー・ベアードという、とても頭のいい男性。今から100年近く前の1925年、彼は穴がたくさん開いた円盤をモーターでくるくる回して、わたしの最初の映像を映し出すことに成功したんだ。それはどんな映像だったと思う?今の君たちが見るような、くっきり綺麗な映像じゃなかった。まるで、おばけみたいにぼんやりと揺れていて、チカチカする白黒の映像だったんだ。でもね、これは世界で初めて、動く絵を機械で遠くに送ることができた、歴史的な大発見だったんだよ。みんな「すごい!」って、とっても驚いたんだ。その次に登場するのが、アメリカの広い農場で育った、ファイロ・ファーンズワースという若い発明家。彼はまだ十代の頃、畑をトラクターで耕しながら、まっすぐに伸びていく畝(うね)をじっと見ていたんだ。その時、彼の頭に電気が走るような、すごいアイデアがひらめいた。「円盤を回す複雑な機械じゃなくて、電気の力を使って、絵を一本一本の線に分解して送れば、もっと綺麗な映像が映るんじゃないか?」ってね。まるで畑の畝みたいに、映像を線で描くことを思いついたんだ。そして1927年、ついにその魔法が実現する日が来た。彼が研究室で初めて映し出したのは、たった一本の、まっすぐな横線だった。地味に見えるかもしれないけど、これは全部が電気の力で動く、全く新しいテレビが誕生した、本当に魔法のような瞬間だったんだ。この「電子式」という仕組みが、今のテレビの基礎になっているんだよ。
ベアードさんの機械式テレビと、ファーンズワースさんの電子式テレビ。二人の天才のアイデアから始まったわたしは、それからどんどん成長していったんだ。最初は科学の実験道具みたいだったけど、やがて世界中のお家のリビングに置かれるようになって、家族の一員になった。わたしのおかげで、人々はお家にいながらにして、遠い国で行われた女王様の豪華な戴冠式を見ることができた。そして何より、みんなが息をのんで見守ったのは、1969年の出来事。なんと、宇宙飛行士が月の上を歩くという、信じられないような瞬間を、わたしは世界中の人々にリアルタイムで届けたんだ。みんな、ソファに座ったまま、人類が初めて月の一歩を踏み出すのを見たんだよ。わたしは、ただの箱じゃない。世界への窓なんだ。今ではわたしの姿もずいぶん変わったね。壁いっぱいの大きなスクリーンになったり、君の手のひらに収まるスマートフォンの中に入ったり。でもね、わたしのいちばん大事な仕事は、昔からずっと変わらない。面白い物語を届け、君がまだ知らない新しい世界を見せ、そして世界中の人々を繋ぐこと。これからも、たくさんの夢と感動を君に届けるからね。
読解問題
クリックして答えを見る
